2025年4月18日(金)から3日間、共感覚をテーマとする公演「ライブ・シナスタジア」を開催するN.U.I.project。今回公演に向けた意気込みを、メンバーの近藤真五さんと柴田誠さん、そして、柴田さんが監督した映画『音と形 -Sound and Structure-』の音響担当であり、「ライブ・シナスタジア」でもドラマーとして出演する森崇さんにお話を伺いました。

N.U.I.projectのはじまりと山形国際ドキュメンタリー映画祭

──まず、N.U.I.projectを結成されたきっかけについて教えてください。

柴田:はい。私は大阪の映像系の専門学校で教員スタッフとして働いているのですが、その関係で山形国際ドキュメンタリー映画祭とご縁がありました。その映画祭では素晴らしい作品がたくさんあるにも関わらず、当時(2005年頃)は一般劇場で上映される作品が少なかったんです。映画祭で出会った作品を少しでも広めようと思い、専門学校と協力して定期的な上映会を行っていました。2005年から約10年間、2015年頃まで、年に2回ほど、上映会を開催していましたね。

その上映会で出会ったのが、メンバーの近藤なんです。その流れの中で「関西、大阪で山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された作品をもっと広めよう」という動きが仲間たちの間で生まれました。それをきっかけに繋がったメンバーとともに、N.U.I.projectが始まったんです。

──具体的には、どのような活動をされていたんですか?

柴田:2019年に『アンダーグラウンド・オーケストラ』という作品を上映しました。この作品は、1997年に山形国際ドキュメンタリー映画祭で紹介されたもので、フランス・パリのメトロで演奏するストリートミュージシャンたちのドキュメンタリーなんです。この上映が一つの大きなイベントになりましたね。オリンピックの前年で、ちょうどコロナになる前の年でした。

この作品は国内でほとんど知られることがなく、山形国際ドキュメンタリー映画祭に所蔵されている35ミリフィルムでしか上映できない作品でした。近藤は35ミリフィルム上映のセッティングが可能なので、それを活用して、観客が音と映像をじっくり楽しめる特別音響上映会を企画したんです。

35ミリフィルム上映会を中心に、「映画館以外の場所で、音響を重視しながら映画を楽しむ」という新しい試みを始めたことは大きな意義がありました。現在のN.U.I.projectのジャンルを横断する取り組みの原点は、この上映会の企画にあるかもしれません。

バシェの音響彫刻への関わり

──その後、どのような展開があったのでしょうか?

柴田:その頃、バシェ兄弟の音響彫刻を研究されている京都市立芸術大学の岡田加津子 教授と個人的にご縁ができまして、こちらに興味が沸いてきました。この音響彫刻は非常にユニークで、映像として記録されていないものも多く、その記録を進めることが課題でした。

岡田教授が中心となり、京都市立芸術大学でバシェの作品を使った展覧会や演奏が行われており、2020年には、京都市立芸大をはじめとする複数の会場でバシェの展覧会を開催する予定でしたが、コロナ禍の影響で規模の縮小や中止を余儀なくされました。ちょうどその頃、東京オリンピックや大阪万博関連の動きがあり、日本国内外での文化的な発信が注目されていた時期でした。この際、公式記録映像の制作や、生配信のサポートをN.U.I.projectが担当しました。

また、バシェの音響彫刻は、復元プロジェクトの後、2基が京都市立芸術大学 沓掛キャンパス 大学会館のホワイエに展示されていましたが、2023年に同大学のキャンパスが京都駅東部エリアへ移転することになってしまったんです。岡田教授をはじめとする研究チームの方々は、「旧キャンパスにあった大学会館ホワイエで鳴らした音が一番良い」とおっしゃっていて、その音響は、この移転により失われてしまう。それを少しでも記録しようと思い、アートドキュメンタリー映画『音と形 -Sound and Structure-』を制作しました。

──『音と形 -Sound and Structure-』予告編動画で小型の楽器を拝見したのですが、その楽器について教えていただけますか?

柴田:「パレットソノール」という楽器です。バシェの音響彫刻の一種ではあるんですが、バシェのコンセプトに基づいて作られたもので、購入することもできるんです。

教育用の楽器として「教育音具」と呼ばれていて、いわゆる情操教育や、子どもたちが音を楽しむために作られたものです。岡田加津子 教授がご自身の研究のために、パレットソノールをたくさん収集されているんですよ。たしか14台近く保有されていたと思います。

『音と形 -Sound and Structure-』<ティザー予告編>

──撮影現場はどのようなものでしたか?

柴田:今回、大学会館で即興演奏を行い、私はその現場を撮影していたのですが、その場での演奏の空気感を重視して記録しました。

苦労した点は、現場になってみないと状況が分からないという点です。即興演奏やその空間に合わせて作業を進める必要があったので、その場その場で対応することが求められました。ただ、結果的には非常に楽しませていただいたと思っています。

バシェの音響彫刻の音響収録──空間全体の響きを捉える

──『音と形 -Sound and Structure-』の音響は森さんが担当されたとのことですが、どのような経緯で関わることになったのでしょうか?

森:2017年に京都市立芸大のホワイエでバシェの音響彫刻を収録させていただいたのが、バシェ作品との最初の出会いでした。その収録はCD化されてリリースもされています。すでにその段階でレコーディングを経験していたので、映画の撮影でもその延長線上の形で取り組むことができました。

──バシェの音響彫刻は通常の楽器と異なるため、特別なセッティングが必要だったのでは?

森:はい、マルチマイクでの収録を行いました。近いマイク、中間距離のマイク、遠いマイクという形でマイクを立て、それぞれの音を収録しました。少なくとも16本か17本くらいのマイクを使用したと思います。空間全体の響きを捉えるためのセッティングだったので、場所の特性を活かすことを重視しました。

ホワイエ自体が非常に響く場所なので、いわゆるスタジオのようなデッドスペースとは全く違います。その響きの中で、バシェの音響彫刻が完全に調和する形で、音響的な空間として成立していくんです。まさにその空間全体が楽器の一部となるような特別な状況で、普通の楽器では味わえない体験でした。

──この作品で、サウンドデザインの観点から意識されたことはありますか?

森:今回の作品では、カメラのマイクで拾った偶然の音に注目しました。本来ならノイズとして排除されるような音ですが、それをエフェクトで加工して活用してみたんです。こうした偶然の産物が、新しい価値や意味を生むこともあると考えています。

共感覚が交錯する「ライブシナスタジア」へ

──N.U.I.projectは4月に上記の映画上映も含めたライブイベント、「ライブシナスタジア」を開催されますが、このプロジェクトはどのようにスタートしたのですか?

柴田:最初は、私と楠瀬というもう1人のメンバーでスタートしました。活動を続ける中で、メンバーを増やしていきたいという思いがあり、さまざまなご縁に恵まれて徐々にメンバーが増えていきました。現在は8名のプロジェクトとして活動しています。

近藤:ジャンルに縛られず、いろんな分野の方々が集まっています。全員で制作する場合もあれば、分野の近い数人で制作する形で何かを生み出すこともあります。このプロセス自体に、ある種の共感覚(シナスタジア)的な要素が含まれているんですよ。例えば、映画監督とダンサーが共演して作品を作るとか、そこで生まれた表現をさらにアニメーション化することもあります。そうした成果をイベントで発表したりしています。

コロナ禍を通じて小さなイベントを重ねながら活動していましたが、大きな転機となったのは森さんとの出会いですね。

森さんは写真家としても活躍していて、ジャンルを横断する森さんのイベントで刺激を受けることが多くありました。昨年も、森さんの「druminism」の公演を観た時、私とメンバーの青木が心を打たれて、意気投合したんです。

森さんの公演を観た後、「何か新しいことをやりたい」という思いがどんどん膨らみ、その結果として4月に『ライブシナスタジア』として公演することが決定しました。

ライブ・シナスタジア 『druminism』trailer

──「druminism」とは具体的にどのようなプロジェクトなのでしょうか?

森:エレクトリックドラムの演奏作品なのですが、その場で音を重ねていく「ライブルーピング」という手法を取り入れています。また、ドラムの動きを映像と同期させ、オーディオビジュアルとしても表現していますが、これは「ドラムの動きの可視化」の試みでもあります。

今回はロームシアター京都のノースホールでの公演ですが、元々はミュージックビデオの撮影を近藤さんと行いたいという話から始まりました。それを観客にも体験してもらおうということで、ライブと撮影現場を融合させた演出となりました。撮影チームも完全にパフォーマンスの一部となり、観客にその現場そのものを楽しんでいただく形になっています。

近藤:今回の「ライブ・シナスタジア」は全3公演になっています。1日目のVol.01は森さんによる「druminism」の公開収録ライブ、2日目のVol.02は『音と形』の上映とトーク、そして3日目のVol.03は、N.U.I.projectと森さんのコラボレーション公演を予定しています。共感覚というテーマを軸に、『音と形』と「druminism」が融合することで、新しい感覚や表現が生まれることを目指しており、未知の領域に挑戦する場にしたいと考えています。この試みを通じて、新たな表現の可能性を探っていきたいですね。


「ライブ・シナスタジア」公演情報

日時:
2025/4/18 (金) 19:30 – 21:00 Vol.01
Takashi Mori『druminism』 feat. sascacci 参加型MV収録LIVE

2025/4/19 (土) 15:30 – 17:00 Vol.02
関西プレミア上映 短編ドキュメンタリー映画『音と形 -Sound and Structure-』

2025/4/19 (土) 18:00 – 19:30 Vol.03
N.U.I.project presents special live session『The Live Synesthesia』

会場: ロームシアター京都 ノースホール
〒606-8342 京都府京都市左京区岡崎最勝寺町13
https://rohmtheatrekyoto.jp/floorguide/north-hall/

料金:単公演:¥3,000
   2回公演:¥5,500
   全3公演:¥7,500 ※事前予約制

ご予約: 事前予約制
(A) ロームシアター京都
▶オンラインチケット 24 時間購入可 ※要事前登録(無料)
https://www.s2.e-get.jp/kyoto/pt/
▶ロームシアター京都 チケットカウンター
 TEL.075-746-3201
 (窓口・電話とも 10:00~17:00/年中無休 ※臨時休館日等により変更の場合あり)
(B) N.U.I.project 予約フォーム
▶オンラインチケット 24 時間購入可 ※要事前登録(無料)
https://forms.gle/9aNTJrxDagSduswL9
 (※全3公演のチケットのご予約はこちらから/当日精算、現金のみ)

『Live Synesthesia』特設サイト
https://www.nui-project.com/event-details/live-synesthesia